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| ‘聖騎士エドウィン?’ ライは自分の耳を疑った。
 エドウィン?エドウィン・バルタソン?
 
 あの女は魔女だ、即刻処刑しろ!
 私は真実を言っているだけです、あの子供達は…
 あなたのお父さんがうちの母さんを殺したんだ!
 人々の叫び声、燃える炎、空に広がる息ができないほどの煙、暗闇から差し延べられた暖かい手。
 
 「ライ!危ない!!」
 
 ディタの声が響き、刃に反射された日差しが目に入り、体が本能的に反応した。
 
 「大丈夫か!」
 
 耳を指すようなディタの声に、ライは自分が敵と対峙している状況に置かれていたことを思い出した。
 そして自分の目の前に立っている聖騎士が自分の運命を変えた男爵の息子であることも。
 そしてこれまで忘れていた心の奥の怒りが全身を震わせた。
 ライはカタールを握り締め、聖騎士にかかった。
 彼女の攻撃は他の誰も途中で止めることができない。
 尖った金属のぶつかり合う音だけが森の中で響いた。
 
 エドウィンにはライの殺気溢れる攻撃を全部防御するのが簡単ではなかった。
 弱そうに見えるだけの女の体でこんな強力な攻撃ができるなんて、と驚くだけだった。
 セリノンはハーフリングの近くにいる仲間にハーフリングの女とダークエルフを攻撃するよう信号を送った。
 セリノンの唇の動きを読んだアサシンらはカタールを握ったままハーフリングの背中の方に近づいた。
 そしてカタールを上げて、ハーフリング切ろうとしたとたん、風を横切る音が耳に響いた。
 
 「…クゥーッ」
 
 カタールを握っていたアサシンの背中に刺されている矢。
 それまで激しく動いていた皆の動きが止まった。
 そこにいた皆の目が、矢が飛んできた方向を向いた。
 そこには金髪や茶髪の真ん中ぐらいの色の髪を持つハーフエルフが大きな弓を引いてライ達を狙っていた。
 生意気な瞳のハーフエルフだった。
 
 「おい、もうやめてくれんか、俺の区域でこんなに大騒ぎしてたら、俺の立場が困ることになるんだ」
 
 「何者だ!」
 
 セリノンの表情は毒溢れる牙をみせている毒蛇みたいだった。声からも殺気が十分感じられる。
 
 「俺はピル傭兵団のカエールだ。死神ともよばれるんだよね。
 まあとにかく今日はここまでにして、みんな仲良くそれぞれの家に帰ってくれないか」
 
 「聖騎士を助けにきたのか」
 
 「まさか!俺はヒューマンなんかに同情しないさ。俺が気になるのはあっちのハーフリングだ。
 今はハーフリングに雇われた傭兵の身だからな」
 
 ライはそーっと自分の腰についている手裏剣に手を伸ばした。
 しかしいつの間にか彼女の腕に矢が飛んできた。ライは悲鳴を上げると同時に手裏剣を落とした。
 
 「余計なことはしない方がいい。お前らの剣が俺に届くよりずっと前に、
 俺の矢がお前らの心臓に刺さるからな。
 これ以上邪魔したら許さん」
 
 カエールの話しにセリノンはカタールを出して、脅かすような声で答えた。
 
 「我らは仕事さえ片付ければ、すぐここを去る。ハーフリングの犬はこのまま去れ」
 
 セリノンの話しが終る前にまた風を横切る音が聞こえた。
 矢はセリノンの後ろにいたディタの首に突き刺さった。
 
 「もう分かったかい」
 
 生き残ったのは自分を含めて3人だけで、しかもライは怪我をしてしまい、
 戦えないことに気付いたセリノンは歯を食いしばった。
 フロンを少し睨んだあと、素早く仲間の遺体の方に手裏剣を投げた。
 手裏剣は遺体にあたった瞬間炎を起こした。その炎から視線を離し、
 またアサシンらの方に視線を戻したときは、彼らは既に姿を消した後だった。
 
 「ふん、瞬く間に逃げやがって」
 
 カエールは矢を背中の矢の管に戻しながら冷ややかに言った。
 エドウィンはアサシンが消えたことを確認してから、剣を戻し、カエールにお礼を言った。
 
 「世話になりました」
 
 「さっきも言ったけど、お前を助けようとしたわけじゃないからな。あのハーフリングのためだ。
 とにかくハーフリングに雇われた傭兵だから。ところであいつら、相当殺しちゃったな。
 めんどくさいことになっちゃったな、ちくしょう」
 
 殺された子供達の遺体を確認しながらカエールが言った。
 
 「生き残った者はいない…ですね」
 
 エドウィンは質問を投げた瞬間、その答えが分かった。
 アサシンらは一撃で命を奪う方法を知っている。
 生き残った者がいるなら、それは奇跡みたいなことだ。
 
 「いねーよ。あいつらはひたすら殺戮のために剣を振るった」
 
 うつぶせになっている遺体をひっくり返し、傷を確認しながらカエールが答えた。
 
 「…エミル…??」
 
 今すぐにでも息が切れそうな叫びがエドウィンやカエールの耳に聞こえた。
 タスカーが凍ったように固まっていた。目はカエールがさっきひっくり返した遺体を見つめている。
 
 「エミル、エミル!!私の息子だわ!!エミル、いやだあぁぁ!!!!」
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