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第四章 隠された真実 第6話 08.10.08
 
穏やかな水面の上で、マレアは目を閉じたまま微動だにしなかった。
動いているのは水面上に立ちのぼる水煙だけ。
白い壁に囲まれた部屋は水で満たされていて、地面を隠している。
水面上に浮かんでいたマレアの体は徐々に水の中に沈んでゆく。
ゆっくりと目を覚ますと、透明な水を通じて見える青い空が視野に広がった。
自分の体が沈んで生じる水の歪みによって、空も歪む。

一時期、主神オンがおられたあの空を見上げ、下位神たちはロハン大陸に
聖なる祝福を与えてくださるように祈りをささげた。
しかし、今下位神たちは、ロハン大陸の全てを消そうとしている。
全ての神の創造主であり、この世界の父なるオンを復活させるために。

主神の妻で世界の母であるエドネは、
「ロハン大陸の創造物たちが繁殖し、その数が増えることによって
無限であるように思われたオンの力が尽き、その体が消滅してしまった」と言った。
下位神たちは、主神自ら創造した巨大な生命体であるドラゴンから粛清することにした。
それが神とドラゴンの戦争である。
ヒューマンのデル・ラゴスとエルフのヴィア・マレアの境界を守っていた
レッドドラゴンを始め、次々と殺してきた。

最後のドラゴンであったブルードラゴン・アルメネスの、その巨大な体が
バラン島に倒れるのをみて、激しかった争いは終わったかに見えた。
しかし主神は戻ってこなかった。
幾多の日々が経ち、下位神たちは沈黙のなかで恐ろしい決意をせざるを得なかった。
 
「ロハン大陸を創造の前に戻す」

最初、ロハがこの恐るべき提案を投げたとき、
他の神たちは容易に賛成することができなかった。
しかし時間が経ち、自分たちの力もだんだん弱まっていることを感じて、
彼らに残っている方法は1つしかないことを認めるしかなかった。

「ロハン大陸の全ての創造物を消滅させねばならぬ。
さもなくば我々も、主神のように消滅せざるを得ない」
 
ドラゴンが消滅したあと、全ての神がロハの提案に同意するまで、
ロハン大陸の創造物たちは自分とは異なる種族と遭遇し、
お互いの文明を共有しながら、進歩を早めていた。
毎日のように新しい生命体が生まれると同時に、神たちの力は徐々に弱まっていった。
それにドラゴンとの戦争で力の消耗が激しかったので、元の状態に戻るまでには
どれぐらいの時間が必要になるかも分からなかった。

そうして、神たちはモンスターを創造した。
神たちの命令に忠実であり、絶対服従し、神の代行者としてロハンの種族たちに
死を与える創造物たちを。
エクサイン、パラゴン、オークなど、数々のモンスターが神たちの指先から生まれた。
しかし、主神オンの創造の力を借りて創ったものではないので、モンスターに
自分の意思というものは存在せず、ロハンの種族たちよりも未開で不完全だった。
モンスターがロハン大陸の大地に立ち上がったときから、
毎日ロハンでは血の匂いが耐えず、恐怖に怯える悲鳴が響くようになった。
そこで止めることなく、ロハはロハンの主な種族でなく、
少数種族にも彼らの命を担保に命令を下す。
 
「ロハンの種族を滅せよ。彼らが絶えれば、お前らの命だけは助かる」

セントール、アピール、ピクシーやエント、そして数々の少数種族は
生き残るため神たちの命令に従うと答えた。
彼らはモンスターと共にロハンの種族を攻撃し始めた。

ロハンの種族たちは自分の創造主である守護神たちに祈りをささげた。
助けを切望する彼らの祈りが絶えなく下位神の耳に流れてくる。
神たちも苦しかったけど、彼らの祈りを聞くことは自分たちの消滅に繋がることだったので、
ロハンの種族の祈り声からは耳を閉じ、涙からは目をそらした。
もう何も見えなくなり、聞こえなくなった。

「まるで水中にいるように・・・」

マレアはそっと呟く。
口から気泡が浮かび、水面を揺らす。
揺れて歪んだ空が元の姿を取り戻したとき、目の前にロハの顔が現れた。
彼は何気ない顔でマレアを見つめる。
 
「お前にやることがある」

ロハの言葉が頭の中で響く。
ロハは主神オンともっとも似ていて、心の声で他の人に話しかけることや
他の人の心中を読み取ることも可能だった。
しかし、今はロハの力も他の神たちのように弱まり、
相手の心までは読めなくなっていることを、マレアはなんとなく見当をつけることができた。
少しロハを見つめたマレアは水面まで浮かび上がる。

「聞いているわ」

「エルフたちの前に現れよ」

マレアの青い瞳が瞬かれる。
モンスターをロハン大陸に放してからは、長い間自分の種族の前に
現れなかったので、急にこんな命令を下すのは驚きだった。

「一度だけでいいだろう。
エルフ達はヒューマンより神に対する未練が残っている。
彼らの前に現れ、ヒューマンとエルフの混血であるハーフエルフを殺すよう命じるのだ」

やっとマレアはロハの考えが分かった。
モンスターと少数種族に命じて、ロハンの種族を攻撃するようにしたものの、
彼らは予想よりしぶとく生き残った。
それに神たちは、やたらモンスターを創ることもできなかった。
無理してモンスターを創造すれば、残っている力さえも尽き果ててしまうかも知れない。

それに前回、ロハの力に抵抗するヒューマンの聖騎士があった。
なぜヒューマンの聖騎士は他のヒューマンと違ってロハの力に従わなかったのか、
誰もその理由は分からなかった。
ゲイルは神たちの力がさらに弱まったからではないかと言い、他の神たちをもっと焦らせた。
結局ロハは、ロハン大陸の滅亡に加速をつけるため、
種族同士の対立を利用することにしたのである。

「分かったわ。そうします」

マレアの答えを聞いてもロハは帰らず、その場に立ったままマレアをじっと見つめる。
しばらく何の話も無くマレアを見つめていたロハは、口を割った。

「フロックスが我らを裏切るようだ」

また、マレアの目が瞬かれ、その青き瞳が揺らぐ。

「まさか…」

「フロックスがハーフリングの街で、ハーフリングたちと遊んでいるのをゲイルが目撃した。
それに…」

ロハはしばらく口を閉じる。
次に言葉を発した時には、彼の声には怒りがこもっていた。

「グラット要塞で俺の力に屈服しなかったヒューマンの聖騎士がその地にいた」

マレアの青き瞳がもっと激しく揺らぐ。
穏やかな波が強風に押されて立つように。

「フロックスがそんなはずないわ…」

「フロックスが我らを裏切ることを確認できたら、我が手で直にあやつめを始末する。
その時がきたら、俺を引き止めようとは考えるな」
第7話もお楽しみに!
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