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第六章 嵐の前夜 第3話-2 09.03.25
 
「またどこかに隠れているようね。
さあ、食べましょう。あの子はすぐ来るはずよ」

ジェニスがテーブルに戻って座りながら話した。

「かくれんぼが好きなようですね?」

「好きというか、もう生活化しているというか…
一人で暗いところにいたほうが気楽になるみたい。
詳しいことは後で話すよ。
それより、魔法アカデミーでの生活はどうだったの?
エルフなら誰でも行きたがるところじゃない」

「普通の学校ですよ。授業受けて祈って… テストも受けて…
授業中には朝飯前だった簡単な魔法もテストではとても難しくなるし…
あるときは、まだ咲いてない花を咲かせる魔法のテストを受けましたけど、
急に頭が真っ白になってしまって呪文が思いだせなくなってしまいましてね。
なんとなく思い出して使いましたが、花が咲くのではなく実がなってしまって…
結局それは再度テストを受けることになってしまいました」

「でも魔法アカデミーでは優等生として卒業したって?
先日アカデミーの総長と会う機会ができて、貴方のことを聞いてみたの。
貴方の褒め言葉しか聴けなかったわよ」

「まあ… 別にやることもなくて授業ばかり熱心だったからでしょう。
父が亡くなってからは休みの時にもアカデミーの寮と図書館にしか行きませんでしたし…
思い出せば、私のように退屈でつまらなく魔法アカデミーを通った人は
他にいないと思います。」

トリアンは亡くなった父を思い出して黙り込んだ。
労しい目つきでトリアンを見ていたジェニスが静かな声で告いだ。

「トリアン…
もしかすると貴方の家族が一人、残っているかも知れないわ」

顔を上げたトリアンが目を丸くしてジェニスを見つめる。

「いったい…」

「レゲンからヴェーナに逃げる途中、私は貴方を見つけたわね。
その時、私はマレアの神殿で修行中していた見習い司祭で、
レゲンが襲われたという話を聞いて避難していたところだったの。
道で倒れていた貴方のお母さんの懐から赤ちゃんの泣き声を聞いて貴方を見つけたわ。
周りを見てみても生きていたのは貴方一人だった。
私は急いで貴方を連れ、他の司祭たちと共にヴェーナに向かい、
無事に貴方のお父さんと貴方を会わせたの。
でもね…
何回も思い出してみたけれど、貴方を見つけたそこには
男の子の死体はなかったわ」

「でも兄は死んだと…
ロレンゾお兄さんは死んだと…」

「乱暴なモンスターたちが暴れていたし、
もしモンスターから逃げ切れたとしても幼い子供一人では
生きていられたはずがないと判断したから
私と貴方のお父さんは、ロレンゾとお母さんは死んで
貴方一人だけ生き残ったと思っていたの。
でも…奇跡というのがあるでしょう?
もしかするとロレンゾは大陸のどこかに生き残っていて
別れた家族をさがしているかもしれないわよ」

トリアンは何も言わずに手に取ったビスケットだけをまじまじ見つめた。
口を割るとすぐ涙が出てしまいそうな気分だった。
やっと胸の奥からこみ上げてくる熱さを押さえたトリアンの声は
少し割れていた。

「ロレンゾお兄さんに出会ったら…
私たち、お互いが分かるのでしょうか?
そのまますれ違ってしまったらどうしよう…」

「貴方たちには同じ血が流れているじゃないの。
きっと分かるはずだわ。
ロレンゾも貴方と同じく紫色の瞳と綺麗な銀髪を持っているでしょう。
奇跡を信じなさい、トリアン」

ジェニスは手を伸ばしてトリアンの手をそっと握った。
トリアンの目から涙が流れ落ちる。
その時、誰かがトリアンの傍を走って、向こう側でかたりと音を出した。
トリアンとジェニスは音が聞こえるところを見上げる。
そこには影のように黒い髪の幼い少女が椅子に座り、
テーブルの上の物をがつがつと食べていた。
トネリコから咲く花という名前のオルネラ。
それがオルネラとトリアンの始めての出会いだった。
第6章4話もお楽しみに!
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