第一章 救援の重さ

第5話 1/2/3

クレムはそんなナトゥーを不満に思っていたが、指摘するタイミングをずっと逃していたし、
クレムの気持に気付いていたのであえて黙っていた。

使者団から離れて先方を走っていたナトゥーは急に手綱を引いて速度を落とした。
誰かが自分の後ろを追いかけてきている。

まさか…クレムがうるさく小言を言うだけのために、ここまで追いかけてくるはずはない。
振り向くと、思ってもいなかった顔が見えた。ナトゥーを追いかけてきたのはダークエルフ使者団の1人、好奇心旺盛なあの若い青年だった。

彼は全速力で追いかけてきたせいか、短い距離だったにも関わらず息が荒い。
白い息が彼の口から冷たい空気の中に広がり、すぐ消えた。

「すごく早いですね、追いかけるの、けっこう大変でしたよ。」

好意溢れる微笑を浮かべるダークエルフ青年を、ナトゥーは眦を吊り上げ睨むように眺めた。
ナトゥーは愛想悪い言い方で答えた。

「危険だから戻って早く一行と合流するんだ。」

「あなたは確か、ナトゥーっていう名前でしたよね?ジャイアントの国でも有名な戦士ってお聞きしました。
あなたと一緒なら危険じゃないですよね?」

「戻れと言ったはずだ」

「あなたを信じてますから」

ナトゥーがいくら険しい表情で言っても、のれんに腕押しといった態でその青年は微笑むのみ。
ナトゥーはため息をついて、ゆっくりとヒポグリフを歩かせた。
兵士達が先発隊としてモンスターを倒しながら道を作っているから、危険なことが起きる可能性はほぼ無いはずだった。
ダークエルフの青年はナトゥーの隣に並びヒポグリフの手綱を握った。

青年が身に纏っている厚いコートや、彼の顔を半分程隠している帽子が相当な高級品であることは、ナトゥーにも分かった。

‘護衛員のくせにおめかしか?…ったく、ダークエルフっていう奴らは…‘

ナトゥーの視線を感じたのか、青年はナトゥーの方を見て、またにっこりと笑った。

「そういえば、自己紹介していませんでしたね。私はフロイオン・アルコンといいます。皆フロンって呼ぶけどね」

長い名前をわざわざ付け、そのわりにそれを略して呼ぶのは、ジャイアントにとって慣れない文化だった。

‘どうせ短くして呼ぶのなら、最初から長い名前なんか付けるなよ‘


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