第六章 嵐の前夜

第10話 1/2/3/4/5/6/7/8

「そうよ・・・しかし貴方は重要な事で旅をしているみたいだから…」

「いいんです。私があの子の心の傷を治してあげたいんです。実は心の傷の治療は初めてなんだけど・・・」

「貴方なら出来ると信じているよ。心と心が通じる事より、いい治療法はないのだから」

トリアンはジェニスとの食事を終えて、一緒にオルネラの寝室に向かった。オルネラは眠ってしまったのか、二人が入っても目を閉じたまま動かなかった。トリアンはオルネラが起きないようにジェニスに囁いた。

「まずはオルネラの無意識の世界を覗きます。深く眠ったようだから簡単に入れるはずです。念のためなんですけれど…私が苦しそうだったら私の魔法を破ってください。そうしたら抜け出せますから」

ジェニスは頷いて腰にかけていたワンドを手にした。トリアンはオルネラのベッドのそばにある椅子に座り、深呼吸をした後、オルネラの頭に手をかざして目を閉じた。音を立てずに、心の中で魔法を発動させながらオルネラに精神を集中させた。その瞬間、自分の体がどこかへ吸い込まれるような感覚がした。

気がつき目を覚ましたら、夕焼けに赤く染まった川が流れているのが見えた。川辺に幼い子供のシルエットがかすかに見えた。トリアンはその子に近づいた。オルネラだった。今とは違った生き生きした顔で、川辺に咲いた小さい野花を摘んで花冠を作っていた。驚くことに、オルネラは歌を歌っていた。ジェニスの言った通りにオルネラはもともと口がきけなかった訳ではなかったのだ。

オルネラは花冠を完成させたら、すっと立ち上がって、どこかへ走り出した。花冠の大きさがオルネラには大きいところを見ると、多分誰かのために作ったもののようだった。


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