第六章 嵐の前夜

第9話 1/2/3/4/5/6

グスタフが出た後、ライはじっと彼が持って来てくれた朝食を見つめた。ここに泊まりながら、もう何度もグスタフが作ってくれた食事を食べたが、他人が自分のために食事を用意してくれるという事にはいまだに慣れていなかった。

暗殺訓練生になって訓練を受け始めて以来、いつも自分の食事は自分で用意していた。それはダン種族の暗殺者であれば誰であろうと当然な事だった。周りから絶え間なく命を脅かされる暗殺者に人の作った食べ物を口に入れるというのはありえないことだった。自分の命を狙う誰かが毒を入れたかもしれないからだ。

しかし、そんな暗殺者にも人が作った物を食べなければならない場合があった。

‘他の種族に扮装して彼らに接近し、一緒に行動しながら重要な情報を入手する’

といった任務の時には、人の作った物を食べることを余儀なくされる。そういう時のためにダン族は、食べ物に入っている毒を調べられる機能が付いている小さいネックレスを持ち歩いていた。

ネックレスに付いている銀で作られた小さいチャームはダン族が特別開発した物で、毒に非常に敏感で少しでも毒に触れると色が黒に変わった。訓練所での訓練が終わるとそのネックレスをもらい、研修暗殺者になると常に身に付けていなければならなった。

ライも首にネックレスを付けていたが、なぜかここではネックレスは使わなくていい気がした。心の声が、毒なんか入ってないとささやいていた。ライはグスタフが置いていったプレートの上の食事を食べながらフロイオンとの取引について考えた。

‘青いマントの医者’が自分にかけられている呪いを解いてくれると、フロイオンとは取引する必要がなくなる。しかし、フロイオンの言ったとおり、ダークエルフの魔法が必要であればどうすればいいのか?

暗殺者の禁忌を破ってでも声を取り戻すべきか?暗殺者にとって依頼人を明かすのは決してやってはいけないことであった。訓練所に入ると、‘依頼人を明かすより死を選ぶ’というダン族の暗殺者が持つべき心得を叩き込まれたものだ。

‘しかし・・・私は暗殺者である前にダン族ではあったのか?パルタルカで彼らは私の事を本当に同じダン族として受け入れてくれたのか?’


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