第六章 嵐の前夜

第9話 1/2/3/4/5/6

自らの問いに返ってきた答えは全て‘違う’だった。本来、ダン族はヒューマン族のように強い結束で結ばれているわけではなかったが、自分を見るダン族の目はいつも異邦人に向けられるものだった。

研修暗殺者になってからも、ジン・ドシジョを師匠とするドシジョ門派に入ったが、同じ門派の人たちの目も自分の事を異邦人としか見てくれなかった。その目がライの事を同じダン族として認めていない証拠なのは、ライ自信が一番よく分かっていた。


彼らは、言葉ではライが同じダン族の暗殺者だと言っているが、無意識の目つきや口調には ‘君は私達とは違う’ という思いがこもっていた。自分をそんな目で見ていなかったのはディタとディタの父、そして師匠であるジン・ドシジョだけだった。

ディタとディタの父は、自分の事を家族同然に接してくれた。師匠のジン・ドシジョは、自分の事を弟子として認めてくれた。彼らはライがダン族であろうが、なかろうが、そんなことは関係ないという感じだった。

ライがダン族である前に、自分達の家族であり、弟子だと思ってくれていた。ディタを思い出すとスプーンを持っていたライの手が少し震えた。自分にはもう家族がいないという事にあらためて気づかされた。自分を生んでくれた母親は、エドウィンの父であるバルタソン男爵のせいで魔女と告発され、火刑された。

‘バルタソン男爵!’

ライは自分の唇を噛んだ。命を落とされる危機に何度も直面しながらも生き残る事が出来たのは復讐という目標があったからであった。

‘自分の手でバルタソン男爵を殺す’

そのためだけに、見ず知らずのディタの父を追ってパルタルカにたどりつき、地獄のような暗殺訓練所でアサシンの技を学んだ。全て母親の復讐のためであった。

‘どうせ私はヒューマンでも、ダンでもない。家族ももういない、ひとりぼっちだ。ダン族が持つべき心得なんかどうでもいい。ただ、私の手で奴を殺す。それだけが私が生きている理由。奴が息を止める瞬間をこの目で見届けるまで何も、誰にも邪魔はさせない。そう…何としてでもこの呪いから抜け出してみせる’


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