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第六章 嵐の前夜 第14話 09.07.15
 


 

「なに??!!」


セルフが立ち上がり叫んだ。

 

「同じハーフエルフがハーフエルフを殺したと?!

今正気で言っているのか!!??」

 

「俺はハーフエルフだと言った覚えはない」

 

「殺人犯は我々の中にいると言ったじゃないか!同じ事だぞ!!」

 

興奮したセルフにゾナトは注意をしつつカエールに聞いた。


「我々の中にいるが、ハーフエルフではないとはどういうことだ?」

 

「ハーフエルフのふりをしているけれど、ハーフエルフではない存在がいるということです。」

 

ゾナトはやっと気付いたという表情で言った。

「ハーフエルフのふりをして我々の中にもぐりこんでいるエルフがいるってことか?」

 

「ええ、その通りです」

 

「どうしてそんなことができるの?」


アリエは信じられないという表情を浮かべていた。

 

「俺達はエルフとヒューマンのハーフだけど、見た目はエルフと変わらない。

違いは魔力が弱いということぐらいだろう。

今も新しいハーフエルフ達がここ、カイノンにたどり着いている。

俺はカイノンに戻るたび見慣れない顔を見かけるんだ。

同じハーフエルフということだけで、なんの疑いもなくカイノンに入れているけど、

実際は誰が過去に何をしていたかに関しては何も知らないんだ。

俺達は皆お互いの事をよく知っているふりをしているが、実際は赤の他人なのさ。

ハーフエルフのふりをしているエルフが潜り込んでも、
俺達はハーフエルフだと信じてあげるしかない」

 

「じゃあ最近入ってきたハーフエルフ達を詳しく調べれば殺人犯が見つかるというのか?」

 

セルフの質問にカエールは首を横に振った。


「いや、そうしてしまうと俺達はお互いのことを疑い始めるようになる」

 

「ハーフエルフたちが生き残るためには団結しなければならないのに、

お互いを疑い始めては団結をすることは難しくなる。

新しく入ってきたハーフエルフたちを追及するのは、殺人犯を喜ばせる結果にしかならない。

しかも最近入ってきたハーフエルフではなく、
以前から入り込んで機会を狙っていたかもしれない」

 

「じゃあ、どうしろと言うんだ。ゾナトの言うとおりに偽の結婚式でもあげると言うのか?」

 

「そうだ。そうするしかない。餌を蒔いて殺人犯が釣られてそれに飛びつくようにね」

 

「カエール、今ゾナトは自分が囮になると言っているのよ」

 

アリエの言葉に驚いたカエールがゾナトを見つめた。


「自分で囮になるって、どういうつもりですか?」

 

「我々の予想通りにエルフがこの事件の犯人であれば、
彼らが狙う最終的な目標はこの私であるはず。

私が結婚式をやるとしたら犯人は新婦ではない私を狙うに違いない。
自分に絶好の機会が訪れたと思うだろう」

 

「しかし、他の人の結婚式をおとりにしてもいいのに…なぜ…?」

 

「もうハーフエルフたちの間で犯人を捜している状況だから、
他の結婚式などには現れない可能性が高い。

犯人は基本に忠実ながら慎重かつ丁寧な性格らしい。

しかし、私が結婚式に出るとなるとしたら、その機会を逃したくはないだろう」


ゾナトは一回言葉を止めて、アリエとカエール、

 

そしてセルフを一度ずつ見つめて普段より優しい口調で言った。

 

「私はこれ以上ハーフエルフ達が犠牲になるのにはもう耐えられない…。

私が命を落とすとしても殺人犯を捕えることができれば、私は本望だ。

そして、私がいなくてもハーフエルフたちはこのカイノンを守りきることができるはずだ」

 

アリエはゾナトを止めてほしいと言わんばかりの目つきでカエールを見つめた。

カエールはしばらくアリエを見つめてからアリエの肩を抱きながら言った。

 

「軍長の意思はよく分かりました」

 

「カエール!?」

 

「軍長の計画に従います」

 

「ありがとう、カエール。君が居てくれて心強い。
君が必ず犯人を見つけてくれると信じている」

 

アリエは仕方がないという表情でため息をついた。

カエールはアリエをあやすように肩を抱きながら強く揺さぶった。

 

「しょうがない。もう軍長が結婚式をあげるという噂も流れている。

罠であることに気付かれないようにしっかり準備をするしかない。
それでは私は軍長の結婚式の準備に…」

 

セルフが席を立ちながら言った。

三人はセルフに挨拶をし、セルフは会議室を立った。

会議が終わったと思いアリエが立とうとした瞬間、

カエールが彼女の腕を引っ張り、そして座らせた。

 

「まだ終わってない」

 

「じゃあセルフを呼んでこないと…」

 

「これから話す事は知っている人が少なければ少ないほどいい」

 

カエールは振り向いてゾナトを見つめながら言った。

 

「軍長が囮になるという事に関してはこれ以上議論の余地はありません。

しかし、出来る限り危険は避けるべきだと思います。

そこで私の考えを聞いてみていただけませんか?」

 

「言ってみろ」

 

「魔法を防ぐことができる鎧を必ず着てください」

 

「そんなのがあるのか!?」

 

アリエの質問にカエールが頷いて説明した。

 

「ダークエルフとの国境線に近いハーフリングの村では

もしもの事態のために魔法を防げる鎧を一戸に一つずつ持っている。

魔法攻撃を完璧に防げるわけではないが、
その攻撃によるダメージを緩和させてくれると言う。

もちろん、軍長の結婚式で犯人が魔法で軍長を攻撃する前にこの私が先に見つける。

しかし、実際には何が起こるかわからない。
『保険』という意味でも軍長にはその鎧を着ていただきたい」

 

「最低限の安全対策か。よかろう。君の要求に応えよう、カエール。

しかし、その鎧をどこで手に入れられるんだ?

結婚式は5日後だが、ハーフリングの村だと片道だけで5日もかかってしまう」

 

「エレナがいるじゃないですか!あの人なら5日でその鎧を作れるはずです」

 

第7章1話-1もお楽しみに!
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