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第六章 嵐の前夜 第13話 09.07.01
 

 

 

「ロレンゾ・パベルと申します。

この子は息子のガラシオンです。よろしくお願いします。

グスタフさんからお話しを聞いております。呪いをかけられていますね」

 

朝食が終わって1時間位経ったとき、紫色の瞳に銀髪の穏やかなエルフが、

黒い髪の毛に青くて灰色の瞳のエルフの少年と一緒に部屋に入ってきた。

ライは銀髪のエルフの自己紹介を聞いて、

彼が噂の「青いマントの医者」だと分かった。

 

「エルフから治癒魔法を受けたことがありますか?」

 

ライはを振った。エルフが治癒魔法を唱えることを見たことがない。

 

「私達は魔法の力で人を治癒しています。

まずは現在かけられている呪いについて調べる必要がありますので、

治癒魔法の前にちょっと調べさせていただきます。

痛くはありませんが、初めてみる方は驚いたり恐れたりしますが、

絶対貴方に悪いことはしませんので、どうか私を信じてください」

 

ライは頷いてロレンゾの指示通りベッドの上で横になった。

ロレンゾは両手でワンドを握ると、ライの体の上に手を伸ばし呪文を唱え始めた。

ワンドから流れ出た白い光は、ライの体に染みこみ全身が光り始めた。

ライは体中から日差しのような暖かさを感じた。

体の隅々まで広がった光はまた一箇所に集まり始めた。

光はライの首あたりに集まると、いつの間にか首を囲むように光っていた。

ロレンゾは唱えていた呪文を終えてライの首辺りへワンドを近づけた。

ほのかに光っていた白い光はワンドが近づくことによって

様々な色に変わり続け、段々黒くなった。

ロレンゾの口からうめき声が漏れた。

だんだん黒くなった光はいつの間にか黒い霧のように変わってライの首を巻いていた。

ロレンゾがまた呪文を唱え始めると黒い霧はロレンゾのワンドへ吸い込まれ始めた。

すべての黒い霧がワンドへ吸い込まれた後でもロレンゾは何もしゃべらなかった。

 

「どうだ?思ったより酷いのか?」

 

グスタフが静かに聞いた。

ロレンゾは何も言わずにうなずいた後、ライに聞いた。

 

「この呪いをかけたのは…ダークエルフ…ですか?」

 

静かに首を縦に振るライを見ながらロレンゾは深いため息をついた。

 

「そうですか…やはりダークエルフの魔法ですね。

正確にいうとダークエルフの魔法の中でも古代の黒魔法です。

グスタフさん、もしかしてこの方にウムコナンの根汁を飲ませましたか?」

 

「もちろん。どんな呪いでもウムコナンの根汁を薄くして飲むと解けるからさ。

ただ彼女の場合薄くせずに原液そのまま飲ませましたが…間違ったかい?」

 

「いいえ。グスタフさんの処方のお陰で命を救われました。

彼女にかけれていた古代の黒魔法は、

自分自身のすべての生命力を一気に燃やし尽くします。

生きている間はまるで自分が神様にでもなったかのような気にもなりますが、

持っている生命力を全て使うと意識を失い23日で命まで失ってしまいます。

彼女が意識を取り戻せたのは、グスタフさんが飲ませたウムコナンのお陰です。

ただあまりにも強力な黒魔法でしたので、

その影響力で声を失ってしまったのだと思います」

 

「あれは、あれはよかったのか。どうか?治せるのか?」

 

「正直に言うと私一人でも無理かもしれません。

最善を尽くしますが…エルフの魔法と黒魔法は属性が違いますので、

ダークエルフの助けが必要です。

しかし…ハーフリングの村にダークエルフがいるはずがないですね」

 

ちょっと悩んでいる様子だったグスタフは、いきなり何かひらめいたかのように叫んだ。

 

「フロイオンがいるんだ!」

 

「フロイオン?」

 

ロレンゾが呆然とした表情でグスタフを見ていると、グスタフが笑いながら説明した。

 

「彼女は生きる運命だな。

ダークエルフがいるはずがないハーフリングの村に

ちょうどダークエルフが一人いるなんて」

 

「ダークエルフがここにいるというのですか?」

 

その瞬間ドアが開きフロイオンが入ってきた。

ロレンゾとガラシオンはびっくりした表情でダークエルフのフロイオンを見た。

 

「ちょうど良い所に来てくれた。フロイオン、挨拶してね。

こちらが前から話をしていた「青いマントの医者」とその息子のガラシオンだ」

 

「初めまして。フロイオンと申します」

 

フロイオンはダークエルフらしく優雅なる身振りで自分を紹介した。

 

「初めまして。ロレンゾ・パベルと申します。

この子は息子のガラシオンです。本当にびっくりしました。

ダークエルフがハーフリングの村にいらっしゃるとは…」

 

「グスタフさんに命を救っていただいた上…

彼女に聞きたいこともありまして、しばらく泊めさせてもらっています」

 

その瞬間フロイオンの目とライの目が合った。

フロイオンの目には、自分の暗殺を依頼した相手を聞こうとする強い意志がこもっていた。

 

「そうですか。でもよかったですね。

彼女にかけられている呪いを解く為にはダークエルフの魔法が必要で悩んでいた所でした」

 

「そうではないかと思っていました。

彼女にかけられている呪いは古代の黒魔法。

しかもイグニスでも禁じられている魔法です」

 

グスタフとロレンゾはびっくりしてフロイオンを見た。

そのロレンゾを見ながらフロイオンがしゃべった。

「解くことができないのも当然だと思います。

ダークエルフの中でもこのような魔法について知っている人はほとんどいません。

魔法の呪いを解く為にはダークエルフの魔法と

エルフの魔法を混ぜ合わせる必要があります。

ロレンゾさんはどう思いますか?」

 

「その通りです。力を貸してくださいますか?」

 

フロイオンは何も言わず、ゆっくりとライに近づいた。

彼女のベッドの横に立ち、ゆっくりと口を開いた。

 

「力を貸してあげるのは可能ですが、その前彼女から約束が必要です」

 

フロイオンの答えを聞いたロレンゾは怒りで顔をしかめてしまった。

 

「患者に治癒の代わりに取引を要求しているのですか?」

 

「すみませんが、私はこのようにするしかない事情にあることをご了解いただきたいです。

彼女は私を殺せとの依頼を受けた暗殺者です。

彼女の手により2回も殺されるところでした。

彼女が意識を取り戻した日に

暗殺を依頼した人について聞きましたが答えは聞けませんでした。

声を出せなかったこともありましたが、彼女が答えることを拒否しました。

しかし私は確かめないといけないのです。どうかご理解いただきたい」

 

ロレンゾとガラシオンはライが暗殺者だったことを聞いてびっくりした。

ロレンゾもしばらく迷っている様子で何も言えなかったが、

やっと声を上げようとした瞬間、

 

「しかし…!」

 

いきなり誰かが彼の裾を引っ張っているのを感じた。

振り向いたら、ライが裾を引っ張りながら首を横に振っていた。

フロイオンはライに聞いた。

 

「私があなたにかけられている呪いの解除を手伝ったら、

私の暗殺を依頼した人の名前を教えてくださいますか?」

 

ライはフロイオンを見ながら首を縦に振り、

誓うように握った手を胸に当てた。

フロイオンの提案を受けるとのしるしだった。

フロイオンはロレンゾを見ながら言った。

 

「始めましょう」

 

ロレンゾはため息をついてから、ライを中心にフロイオンと反対側に立った。

ベッドで横になっているライの両側に向き合って立ち、

ロレンゾは自分のワンドを伸ばしながら説明をした。

 

「右手で私のワンドを握り、左手は私の右手を掴んでください。

私が水を使った治癒を始めるとフロイオンさんは炎を作り出す呪文を唱えてください。

呪いが解き始まると思います。

フロイオンさんがおっしゃった通り、彼女にかけられた呪いが

強力な古代の黒魔法であるなら相当の魔力が必要だと思います」

 

フロイオンはロレンゾの指示通り右手ではワンドを、

左手ではワンドを握った右手を掴んだ。

 

「呪いを解くって事は死に向かっていた魔法を生命に向かわせることです。

簡単にではありません」

 

ロレンゾが治癒の魔法を唱え始めると、

それと同時にフロイオンも呪文を唱えた。

ワンドを握った2人の手から流れた青い光と赤い光が

螺旋になってワンドを巻きあい、

まるで稲妻が大地に射されるような勢いでライへ落ちた。

目をつぶっていたライの顔に苦しみが浮かんだ。

ロレンゾとフロイオンの手から流れ出していた2色の光は、

ライの体に吸収されるように溢れ出してきた。

2人は汗をダラダラ流し、ライは息苦しさのあまり真っ青になった。

ライの体へ吸い込まれた2つの光は金色になって首へ集まった。

光が集まると首から黒い水のような、まるで夜の海のような黒い波が現れ、

治癒の光と激しくぶつかり合った。

ガラシオンの目は好奇心と驚きで大きくなっていた。

グスタフはガラシオンの肩に手をして静かに説明した。

 

「患者の首から出ている黒い煙が呪いの力だ。

その力と破るために治癒の光が戦っているんだ。

呪いが強力なものであればあるほど、

治癒の光を作る治療師の魔力が多く使われる。

よく見といてごらん。

ガラシオン、お前の父親は自分がどれほどつらくても絶対患者を捨てたりはしない」

 

どんどん激しく大きな塊になった治癒の光と黒い煙は

やがて子供の頭ぐらいの大きさになって、

速いスピードで回転しながら白い煙に変わり始めた。

ライの首から流れだした黒い煙が全部消えた後、

ロレンゾとフロイオンは唱えた魔法を終えた。

真っ白になったライの顔の血色がよくなった。

ロレンゾは気をつけながらゆっくりとライの肩を振った。

ライが目を開き、やっとロレンゾは安堵した。

 

「成功したか?」

 

グスタフとガラシオンがベッドに近づきながら聞いた。

彼女の体にあった呪いは完全に解かれたと、ロレンゾが答えた。

 

「なら、声が出るのか?どうだ?名前を教えてくれないか?」

 

グスタフの質問にライはもじもじしながら答えた。

 

「ラ…ライです」

 

「本当に呪いが解けた!ロレンゾ、フロイオン、よくやったぞ。ご苦労!」

 

「私にはまだ用が残っています」

 

フロイオンは疲れて声でライに聞いた。

 

「教えてください。私の暗殺を依頼したのは一体誰ですか…?」

 

ライは上半身を立てながら、フロイオンの顔をじっくり見ながらゆっくりと答えた。

 

「ジャドール…ジャドール・ラフドモン」


 

 

第6章14話もお楽しみに!
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