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第七章 破られた時間 第6話-1 09.08.26

 

「本当に一人で行くつもりですか?」

 

ジフリットの心配そうな質問にベルゼン伯爵は
微笑みを浮かべながら言った。

 

「私の事を信じ、城門を開けておくとおっしゃいました。

シュタウフェン伯爵はそんな人なのです。
心配する事はありません」

 

グレイアムは格式のある服装をしてから馬に乗った。

馬にも一切防具をつけてない状態だった。

 

「それでは行って参ります。
いい結果になるように祈ってください」

 

三人に挨拶をしてからグレイアムはシュタウフェン伯爵の城に向かって馬を走らせた。

崖の下につながる道を走っていくグレイアムの馬を見ながら

みんなは不安な様子を隠しきれなかった。

 

しかし、シュタウフェン伯爵の手紙に書いてあった通りに、

城門は無防備と思われるほど開放されていた。

城門が開かれた隙を狙って襲撃すると、
むしろ卑怯だと言われる気がした。

グレイアムは城門を通りながら馬の速度を緩めていった。

 

城壁の内側は攻城戦に備えているようには見えなかった。

皆立ち去って捨てられた城という感じがした。

馬から下りて周りを見渡していると、

遠くからランプを持って小走りで近づいてくる年寄りの執事と

馬子の格好をした男の姿が目に入った。

 

「ようこそ、ベルゼン伯爵様。ご主人様がお待ちしております。

馬は馬子に預けられて、私と一緒に行きましょう」

 

ベルゼン伯爵は馬の手綱を老いた馬子に渡すと、執事の男について行った。

しばらく歩いて行くと、美しい模様が刻まれた大理石の扉が

客を迎えるために開けられているのが見えた。

開けられている扉から室内を照らしている

明かりが漏れていたが、人の気配はなかった。

 

「誰もいないですね」

 

グレイアムの言葉に執事が振り向きながら答えた。

 

「申し訳ございません。ご主人様からまもなく戦争が始まるから

皆、お城から離れろという命令がございまして…

すべての下男、下女がここから立ち去りました。

私や老いた馬子のように死ぬ日だけを待っている老いぼれは

くだらない命を1日でも延ばそうと城を離れるより、

ご主人様の隣で最後を迎えたほうが価値のある事だと思ったので、

ご主人様の命令に逆らって残っているのです」

 

2階への階段を上り、ある部屋の前で止まった執事は

手にしていたランプの火を消して首を下げながら言った。

 

「ここでご主人様がお待ちになられています」

 

執事が開けてくれた扉の向こうに荒木を炊いているペチカと

その前に置かれている大きい椅子に座っている一人の男の姿が見えた。

グレイアムが部屋の中に入ると男は椅子から立って挨拶をした。

 

「ようこそ、ベルゼン伯爵」

 

青黒い光沢が漂う、高級な服装を端整に着ているシュタウフェン伯爵は

気苦労が多かったのか疲れているようにみえたが、

顔には平穏な笑みを浮かべていた。

白髪まじりの彼は自分の息子ぐらいのベルゼン伯爵に
丁重に座ることを勧めた。

 

「遠路はるばる、ご苦労様です」

 

「いいえ。国王陛下の命令に従うのが当然です」

 

シュタウフェン伯爵は気持ちよさそうに笑いながら立ち上がって

ペチカの上に置いておいたグラスにお酒を注いだ。

薄く青いお酒をグラスに半分ぐらい注いで、

グレイアムに渡しながら言った。

 

「時間に余裕があるなら食事でもご馳走できたのに残念ですね。

今は麦キノコの食べごろなので是非ご馳走したかったのですが…」

 

「ここで採れる麦キノコは香りに優れていてアインホルンでも有名です。

いつかその機会が来るといいですね」

 

グレイアムにグラスを渡して席についたシュタウフェン伯爵は乾杯をした。

 

「国王陛下のために!」

 

乾杯した後、シュタウフェン伯爵が静かに言った。

 

「伯爵がこんな遅くに私を訪ねて来た理由はよく分かっています。

私も大地に血が流れるのは見たくありません。だが…」

 

言葉を止めてグラスの酒を一気に飲み干した後、

シュタウフェン伯爵はベルゼン伯爵を見ながら強い口調で言った。

 

「父として、息子を死に追いやるわけにはいけません。

最後に私を説得しに単身で来てくださった

伯爵の広い心には感謝する気持ちでいっぱいですが、

私は息子を諦められないという事をはっきりお伝えいたします」

 

グレイアムは黙って酒を飲み干して席から立った。

 

シュタウフェン伯爵の意思はよく分かりました。

どうしても…そうおっしゃるのであれば、私としては国王陛下の

命令に従うしかないということを理解してくださると信じています」

 

老いた伯爵は席から立ってグレイアムに握手の手を伸ばした。

 

「伯爵のような方が国王陛下の傍にいる事ですから

安心して目を瞑ることができそうです。

何卒、デル・ラゴスの繁栄が永遠に続くよう

陛下の右腕となるようよろしくお願いいたします」

 

握手をしてからグレイアムは自分を迎えにきた執事と共に城をたった。

シュタウフェン伯爵は窓側に立つと、

若い伯爵が馬に乗って自分の城から離れていくのを見守った。

グレイアムが離れると城門は硬く閉じられた。

  

第7章6話-2もお楽しみに!
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