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第七章 破られた時間 第9話 09.09.24

 

集まっていた人々は聞き間違いだと思った。

大長老イゴールはその言葉の意味を問いただした。

 

「自然が破壊されて行くとは…いったいどんな意味でしょうか?」

 

「前回の会議で、アピル族が我々に背を向けたことについて聞いていらっしゃると思います。

それと関係があるかどうかは分かりませんが、
一部の野生動物がモンスター化しています。

一番代表的な動物が熊です。

皆さんもご存知の通り、熊は本来ならこちらから先に攻撃しない限り

人を襲わない動物でした。

しかし、最近森の中でいきなり熊に襲われたという人が増えています。

今は一部の野生動物に限る話ですが、野生動物全体がモンスター化するかもしれません。

まるで、仲良く共存してきたアピル族とピクシー族が変異した事のように…」

 

バルコンの話が終わっても誰も何も言わなかった。
会議室には沈黙だけが流れていた。

しばらくして、ようやく大長老が口を開いた。

 

「若いハーフリングに召喚技術を習わせることについては、

長老たちの綿密な会議で決めることにします。

その他の意見はございませんか?」

 

「神官たちに特別な儀式を頼むことはいかがでしょうか?」

 

ベロベロの後継として新しく眉毛ミミズク長老になったニカウが慎重に声を出した。

ニカウの意見に松コケの長老が首を振りながら重苦しい声で言い出した。

 

「儀式をしても答えが得られなくなって、もう50年以上経ちました。

特別な儀式をしたとしてもシルバ様の声が聞けるとは思えません。

我々には計り知れないお考えがあって、沈黙していらっしゃるのだと思います。

我々としては待つしかありません」

 

「あの…」

 

その場の全員が声の主の方に振り向いた。

茶髪の若い情報収集家が恥ずかしがりながら手を上げていた。

 

「どうぞ」

 

大長老の声に、若きの情報収集家は席から立ちあがり、震える声でしゃべり始めた。

 

「私は今回始めて情報収集に行ってきたモクモクと申します。

エルス港へ向かっている途中、偶然とラウケ神団の人々と出会いました」

 

ラウケ神団という言葉にタスカーは自分も知らないうちに耳をすませていた。

 

「ラウケ神団についてはご存知ですよね。

ヘルラックという予言者の著書に基づき、集まり始まった新興宗教集団で、

彼らの聖書と呼ばれる予言書によると、

ロハン大陸に訪れている最近の危機は神様の意思で、

この世を滅亡から救う為には、神様の許しを請う必要があるそうです。

ラウケ神団の人々が一日の半分以上、祈りを捧げているのは

それが理由だということはほとんどの方がご存知だと思います。」

 

バーブムがラウケ神団について、
当たり前のことのように話すと、モクモクは首を横に振った。

 

「しかし、この前会った集団は違いました。

ロハン大陸の滅亡を防ぐ為に神様に許しを求めるのは知っての通りでしたが…

彼らは祈りを捧げるのではなく、罪を犯した人々を処罰して

大陸を浄化させるべきだと信じていました」

 

「罪を犯したら処罰を受けることは当たり前ではないでしょうか?」

 

松コケ長老が理解できないといった表情で聞いた。

 

「彼らは…全ての犯罪者を殺しました。
ちっぽけな嘘をついた人まで殺していました!」

「何と!」

 

一気に会場が騒がしくなった。

大長老が人々を静かにさせ、そのまま立っていたモクモクを座らせた。

それから落ち着いた口調で話し始めた。

 

「この世に混沌が続いていくと、正しい判断するのが難しくなります。

その分、間違っていることを信じてしまう人が増えると思います。

私が見る限りでは、モクモクさんが目撃した集団はラウケ神団とは違う、

悪性の宗教集団だと思います。

今まで私たちが集めてきたラウケ神団の情報を考えると、

神様がロハン大陸を滅ぼそうとしているという彼らの主張は
あまりにも危険なものですが、

悪質なことをした情報はありませんでした。

モクモクさんが目撃した人々は途中で判断力を失い、

間違った方向へいってしまった人々の集まりでしょう。

結論はより多くの情報を集めてから判断しても遅くはならないでしょう」

 

タスカーの目は長老たちが話している様子を見ているように
彼らの動きを追っているが、

頭の中は完全に会議場から離れていた。

エミルがラウケ神団の人になったことについては聞いたが、

それ以上は何も知らなかったことに気がついた。

犯罪者を殺して大陸を浄化させる集団と、

命を賭けて神の許しを求める集団、

そのどちらだったのかさえ、わからない。

自分は息子について何も知らなかったのだ。

エミルが2歳になった頃、タスカーは正式に情報収集家になった。

その時からエミルとはあまりしゃべる時間がなかった。

エミルの面倒を見るのは画家だった夫に任せた。

家族の面倒を見るのが好きなやさしい夫を信じていたので、

エミルについて何の心配なく、思いっきり頑張って情報収集家として活動をしていた。

突然、夫が心臓麻痺でこの世を去ったのはエミルが13歳の時だった。

でもエミルは一人で十分独立して生活できるようになっていたので、
母の力を必要としなかった。

タスカーは夫の急死への悲しい想いを乗り越える為に、

より忙しくあっちこっち動き回った。

エミルとの時間もほとんどなくなった。

 

ある日、エミルがラウケ神団の集会にいたことを聞いた瞬間、

やっとエミルと時間をぜんぜん過ごしてない自分に気がついた。

情報収集家としての活動を減らし、

息子と時間を過ごすように頑張ってみたが、

息子の心は既にラウケ神団に行っていた。

エミルはいきなりの母との交流に喜ばなかった。

結局何ヶ月後かに、息子は手紙一枚を残してラウケ神団の人々と一緒に旅立ってしまった。

 

その後、全力で探して追いかけていたが、

やっと見つけた息子は既に冷たい遺体になっていたのだ。

タスカーは息子について何も知らなかったことを痛く感じた。

彼が好きな食べ物は何だったのか、友達は何人いたのか、

中で一番好きだったのは誰だったのか、

大人になって召喚したい動物は何だったのかなどなど…

エミルが夢中になったラウケ神団についても彼に聞いたわけではなかった。

情報収集家として情報を得たのだ。

ラウケ神団について調べて分かるようになると、

少しはエミルについても分かるようになるのではないかと思い始めた。

タスカーはエミルの為、ラウケ神団について調べることにした。

 

 

次回もお楽しみに!
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