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第七章 破られた時間 第10話 09.10.07

 

 

国王の命令で正義を貫こうとする者。

すべてを捨てて一番大切なものを守ろうとする者。

両者の戦いはかなりつらいものであった。

シュタウフェン伯爵の兵士達は、グレイアムとバルタソン男爵の兵士が

城への接近が出来なくなる程度の最低限の攻撃をやってくるだけだった。

朝から開始された攻撃は、太陽が西の空に沈んむまで何の進捗もなかった。

グレイアムは、これ以上戦いが長引くと兵士の士気は落ち、
より多くの犠牲者が出るだけだと判断した。

早く城の中へ進攻したほうがいいというグレイアムの意見にバルタソン男爵も同意した。

 

「自分も同じ事を思っていました。この戦いは長引いても互いに良いことはないと思います。

またシュタウフェン伯爵は攻撃よりは防御に集中しているので

より強く攻めた方が良いと思います。衝車を準備させましょう」

 

「私の意見はちょっと違います」

 

隣で話を聞いていたジフリットが口を開いた。

グレイアムはジフリットに話を続けるよう促した。

 

「シュタウフェン伯爵が私たちを攻撃するつもりがない事については同意します。

しかし、衝車を使うことで城の中へ侵入できるとは思いません。

相手がある程度被害を受けて、防御が弱くならないと衝車で城へ入ることはできないでしょう。

今のように全ての力を防御に注いでいる状況では、

逆にこちらの兵士の士気だけが落ちるだけだと思います。」

 

「考えている作戦でもありますか?」

 

「昨日城へ行った時、下男も下女もいなかったと聞きましたが…」

 

「はい、残っているのは年寄りの執事と馬子だけでした。

執事の話ではシュタウフェン伯爵から命令があって

私たちが着く前にみんな城から離れたそうです」

 

ジフリットはテーブル上に広げておいた地図から城の南と北を示しながら話を続けた。

 

「では、城の中に残っているのは伯爵と武装した兵士たちだけですね。

投石器を利用して南の方向を攻撃し、北からは衝車を利用して城に侵入した方がいいと思います」

 

「投石器で視線を逸らすってことでしょうか?」

 

「はい、投石器で城壁を攻撃しても民間の人が犠牲になることはないでしょう」

 

グレイアムは納得したように頷いた。

バルタソン男爵はジフリットが指差した地点をじっくりみながらジフリットに声をかけた。

 

「フム、衝車を北の壁へ持って行こうとしたら、

東に曲がらなくちゃいけないな…夜移動するしかないか」

 

「はい、衝車で城の北へ移動し城内へ侵入するのはエドウィンに任せた方がいいと思います」

 

静かにジフリットの説明を聞いていたエドウィンはびっくりして自分の兄に目を合わせた。

 

「シュタウフェン伯爵に、私たちが城の北を狙っていることを気づかれないようにする為には

今まで顔を出したことのない人に任せたほうがいいと思います。

エドウィンも兵士を仕切ったことがあるので、彼を信じて任せていいと思います」

 

バルタソン男爵はゆっくり頷いて、グレイアムを見ながら意見を聞いた。

 

「私も司祭ジフリット様の意見通り、バルタソン君に任せることに賛成します。

シュタウフェン伯爵はバルタソン男爵と私がここにいると知っているので、

明日の朝、姿を見せない人がいると疑われると思います。

いきなり兵士が減るとシュタウフェン伯爵に怪しまれるので、
あまり多くの兵士を投入することが出来ません」

 

「私に任せてください」

 

エドウィンは決意に満ちた眼差しだった。

ベルゼン伯爵はエドウィンの肩に手をかけながら言った。

 

「そなたに北の攻撃を命じます。夕方、日が沈むと同時に10名の兵士と移動してください」

 

「かしこまりました。今から準備をします」

 

エドウィンはバルタソン伯爵のキャンプから出て自分のキャンプへ戻った。

すばやい兵士を10名選抜し、剣と盾、その他必需品を準備させ、

日暮れの頃、出発準備を終えた。

それに合わせてグレイアムは戦線の兵士に陣営に戻るように命令した。

シュタウフェン陣営も敵が下がると攻撃を止めた。

 

やがて太陽の光が完全に消え、暗くなってからエドウィンは衝車を引く兵士と東へ向かった。

相手に気づかれないように出来るだけ遠い道を選んだが、

出来るだけ早く着かないといけないないので急いで移動した。

シュタウフェン伯爵の城が見えないくらい遠くなって巨大な森が現れた。

大きな木々に満ちた森の中には月の光すら入らなく、目の前すら見えない真っ暗な所だった。

エドウィンはたいまつに火をともして先方に立ち、

衝車を引かない兵士にもたいまつを持たせた。

どこかから吹いてくる風にたいまつの火が揺らいで地面に影を作った。

 

目的地を正確に把握することが最優先だ。

昼間は太陽の動きで方向を把握し、夜に月の動きで分かることが出来るが、

月光が入らない真っ暗な森の中で正確な方向を知るのは大変なことだった。

 

休まずに前へ移動するしかない。

エドウィンは頭の中で地図を描きながら、北だと思っている方向へ歩き続けた。

漆黒の闇の中をくぐりぬけることは、まるで足踏みをしているような錯覚までした。

周りは完全な暗闇で、かすかに木の陰が見えるだけだった。

兵士たちも必死に自分の足元を確かめながら歩いていた。

エドウィンはこれ以上暗い雰囲気にならないよう、兵士たちに声をかけた。

 

「変な所ですね。フクロウの鳴きも聞こえないですね。」

 

たいまつを持ち、衝車の一番前を歩いていた兵士がエドウィンの声に答えた。

 

「ここは始めてですか?」

 

「はい、始めてです」

 

「僕もこの森に入ったのは始めてですが、この辺までは来たことがあります。

この近くの人にとってこの森は大事な場所だそうです」

 

「一筋の光も入らないのに、ですか?昼間でも危なさそうですが…」

 

「この地域の名産物が何かご存知ですか?あの有名な麦キノコです。
一度は聞いたことがあるでしょう。

僕は一度も食べたことがありませんが、きのこの王様とも呼ばれるほど特別な味だそうです。

おいしい麦キノコを栽培する為に一番重要な条件が、
暗闇の中で長い時間をかけて育てることだそうです。

だからこの森が、麦キノコの栽培には最高の場所だそうです」

 

「そうですが。麦キノコのおいしさが暗闇から生まれるってことは面白いですね」

 

後ろで衝車を引いていた兵士が話に入った。

 

「前聞いた話では、麦キノコ1個に金貨1枚だそうだぜ。

なら、この近くの人はみんな大金持ちなのか?」

 

この近くまで来たことがあると言った兵士が、舌打ちをしながら話した。

 

「馬鹿なこというなよ。採ったキノコは城主に献上するんだぞ。知らなかったか?

麦キノコは全て城主のもんだぞ。

僕らみたいな一般人がキノコを売ろうとしたところを掴まれたらそのまま監獄行きだぜ。

たぶん、お前にキノコの値段を教えてくれたやつももう監獄にいるんじゃない?」

 

「チェ!帰り道にキノコでも採って帰ろうかと思ったのに、これじゃ無理じゃないか!」

 

不満をこぼす兵士の言葉にみんな笑い出した。

人々の笑い声が闇の森へ広がり、山彦になった笑い声がかすかに聞こえる頃、

月光の光る平地に出た。

果てしなく続きそうだった森からやっと抜け出したのだった。

 

 

第7章11話もお楽しみに!
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