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第八章 夢へと繋がる鍵 第14話 10.02.10

 

 

・・・主神オンの手から山が生まれ、川が生まれ、オンの息吹で生命が誕生した。

エドネが子供達を生んで、彼らにロハン大陸を支配する種族を創るように命じた。

それがロハンの歴史の始まり…

 

ロハはマーブリングされた石のドアに刻まれている文章を読んでから深くため息を吐いた。

硬く閉ざされている父の部屋は彼が消滅した後からは1度も開いたことがない。

ロハは何度も中に入ろうとしたが、ドアは彼を受け入れてくれなかった。

ロハは自分の部屋に向かって歩き始めた。

 

‘主神が消滅すると、誰が予想していただろう?’

 

主神オンが消えた後、下位神たちが恐怖に囲まれていた時もエドネの声が聞こえたのはロハだけだった。

エドネは涙を流しながら叫んでいた。

遥かに遠くから聞こえてくる彼女が言ったのは一つだけだった。

ロハン大陸を滅亡させて、主神オンを復活させろ。

エドネの言葉を聞いたが、すぐには誰にも言えなかった。

自分の部屋に閉じこもって繰り返し考え続けた。

 

‘何故ロハン大陸を滅亡させることで主神オンを復活させろと言ったのだろう?’

 

ずっと考えた後でやっと主神オンが消滅した理由がロハン大陸の繁殖にかかわっていることが分かった。

ロハン大陸の生命体が増えると主神オンが持っている生命力は減る。

赤ん坊がお腹の中で、母親の栄養を吸い取って成長するように、

ロハン大陸の生命は全てオンの生命力を吸収して成長していた。

母親は食べることでまた回復できるが、主神オンはそれが出来なかったのだ。

無限だと信じていた主神オンの生命力にも限界があったのだ。

やがて自分の創造物に全ての生命力を奪われた主神オンは消滅してしまったのだ。

 

‘次は俺たち?’

 

それを考えた瞬間、全身に寒気が走った。

自分が創造したヒューマン族が繁殖すればするほど、だんだん自分の力が減っていくことは感じていたが

まさか自分の消滅に繋がるとは思いもしなかったのだ。

主神オンが消滅した。

選択肢は一つだけ。

エドネが言うように、ロハン大陸を破壊し、奪われた力を取り戻すことしかない。

 

急がなければならない。

急速に増えているロハの被造物に奪われている生命力も急増している。

まだ取り戻せることが出来る今のうちにやらなければならない。

そう結論を出したロハは兄弟たちにエドネの言葉を伝えた。

彼らも自分の力がだんだん減っていることには気が付いていたようだったが

最初はみんな信じられない様子だった。

 

ロハン大陸の終末で主神オンを復活させることができるかどうかは分からない。

それに、奪われた力が戻るかどうかも分からない。

だが、このまま何もしなければ主神オンのように消滅することは間違いないだろう。

 

まずロハン大陸の種族がぶつからないように境界線に立っておいたドラゴンを消すことにした。

アルピアの果てに立ち、ロハン大陸を見下ろしたら

様々な種類の10匹のドラゴンと彼らの赤ちゃんが目に入った。

ロハの手先がドラゴンの頭であるシルバードラゴンを殺し、ドラゴンと下位神たちの戦争が開始された。

 

主神オンが創造した生命体の中でも一番巨大な存在を滅亡させることは簡単には出来なかった。

急な攻撃でシルバードラゴンは倒れたが、他のドラゴンたちは団結して下位神たちに反撃してきた。

予想より激しいドラゴンの反撃に下位神たちも慌ててしまった。

ロハは呪いの塔の封印を破り、飛び出してきた古代悪魔たちの自由を約束して

彼らの力まで借りてやっとドラゴンとの戦争に勝つことができた。

 

戦争には勝ったが、ドラゴンたちを滅亡させたわけではなかった。

ロハは夫婦であった青い髭のニッドホッグと赤い髭のリンドブルムを深い地下の暗黒の空間に閉じ込め

永遠にお互いを捜し続けるようにした。

赤ちゃんドラゴンは、下位神の命令に従うモンスターにした。

他にもたくさんのモンスターを作ってロハン大陸の生命体を殺すようにした。

ピクシーやノールのような少数種族には他の種族を攻撃するように命令した。

自然と一つになって平和を守りながら生きていた彼らが下位神たちの命令に従った理由は一つだけだった。

終末のとき、彼らの命だけは守ってあげるという下位神の嘘を信じたのだ。

しかし、終わりが来た時、ロハン大陸に生命体は存在しないだろう。

残るのは静かな沈黙だけ。

 

「ロハ、私を呼んだの?」

 

思い込んでいたロハの耳に清らかな声が聞こえてきた。

顔を上げてみると、シルバが目を光らせてロハを見つめていた。

 

「ロハの伝令は凄いね。

誰も知らないところで一人静かに身を隠していたのに、私を探し出した。

私達の一番えらい人が探していると伝えてくれた」

 

楽しそうに声をかけるシルバの話には少しも興味が湧かないように、ロハは無表情な顔で言い始めた。

 

「以前ゲイルにハーフリングの町を壊すように命令した。

しかしあの町に偶然フロックスが現われたから、ゲイルは手を出す事が出来なかった。

シルバ、お前がやって欲しい」

 

「簡単だよ。どうして欲しい?台風で綺麗に掃除してあげようか?」

 

ロハは顔を横に振った。

 

「いや。風を利用して狂気を広げて欲しい。ハーフリングがお互いを殺しあうように」

 

シルバは好奇心が湧いた顔で聞いた。

 

「何でわざわざそうするの?台風だったら一瞬で綺麗にできるのに?」

 

「フロックスへの罰だ。再び俺の命令に従わせる為だ。これで充分だろう?今すぐ始めろ。」

 

詳しく話すのも面倒くさいというように、シルバを残して一人でどこかに歩いて行った。

シルバは小さくなっていくロハの後ろ姿をずっと見ていた。

シルバは何も知らないような、何も興味がないような振りをしていたが、実際は全部見ていた。

ロハが何故このように命令したかも知っている。

ロハが破壊するように命令した町にはフロックスの心に入った少女が住んでいる。

ロハは彼女を殺すことでフロックスをいじめるつもりだ。

狂気によって自我を失った町の人々によって少女が殺されると、フロックスは怒り狂うだろう。

ロハン大陸に復讐したくなる動機付けとしては充分だ。

シルバは苦笑しながら、一人でつぶやいた。

 

「ロハ…あなたは私が創ったどんなモンスターよりも醜いと思うわ」

第8章15話もお楽しみに!
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