HOME > コミュニティ > 小説
第八章 夢へと繋がる鍵 第15話 10.02.24


タスカはエミルの最後の日記を閉じて、窓の外を見ながら考えた。

エミルを神の存在として信じたくて「ラウケ神団」に入った。

多くの人々が神様へ慈悲を求める祈りをあげると、いつかは応えてくれると

それで神様の存在も確認できると信じて神団の活動に参加したのだ。

人々の祈りに神様が応えてくれるのを確認できず、永遠の眠りに落ちてしまったが、

エミルの魂が神へ近づいて心の中の混乱も収まっていると思ったら、

悲しい感情も少し減ったような気がした。

 

エミルの日記には情報収集家たちが集めた情報より、ラウケ神団について詳しく書いてあった。

ラウケ神団はデル・ラゴスの昔の予言者だったヘルラックの予言書に基づいて、

ヘルラックの弟子である‘エリシャ’が自分の種族であるヒューマンに

神の真実を伝える為に創立したと書いてあった。

エミルはまだ教授の‘エリシャ’とはあったことがないが、彼と出会えることを楽しみにしていた。

‘エリシャ’はエルフ達の首都ヴェーナからライネル川を渡り南へ行くと

海辺にあるラウケ神殿修道院にいるそうだ。

 

ラウケ神殿修道院は‘パビオ’というエルフの建築家が自分の財産で建てたので、

エルフ様式になっているそうだ。

ラウケ神殿修道院には‘世の中の何より真実が一番美しい’という彼らの思念通り、

ほとんどの部屋が書斎になっているそうだ。

タスカはエミルの日記を読んで息子が‘ラウケ神団の人’になった理由が分かったが、

息子が信じていた通り‘ラウケ神団’が神の真実を知っていたのかを確かめたかった。

 

表に出したことはないが、神たちがロハンの種族を捨てたという噂を聞いた事がある。

今まで‘あり得ないこと’と無視してきたが、本当に捨てられたのではないかと感じた時もある。

ヒューマン族の最高要塞グラット要塞がモンスターに落ちてしまい、

エルフ達がモンスターに首都レゲンを奪われ、疫病で数多くのエルフ達が命を奪われた。

毎日のように増加し続けているモンスターの為、人々が多く集まっている場所以外は、

モンスターの攻撃に明け暮れている。

前回の会議では自然が破壊されている話まで出てしまった。

この世はどんどん混乱に落ちている。

まるで何処からか混乱の源があって、泉のように溢れ出ているように、この世に吸い取られている。

もしかして、時間を逆行させ、この世が生まれる前の状態に戻したがっているのではないか?

彼女も息子が知りたがっていた真実が知りたいと思った。

生まれつきの好奇心で彼女の胸がいっぱいになった。

本当に神が存在するのか、神が存在するとしたら、今はこの世から目を離しているのか…

タスカは息子の日記帳を大事に両手で抱えて部屋から出た。

 

まず‘ラウケ神団’の内面にさらに近付くことにした。

‘ラウケ神団’が知っている真実が何かを知るためにはより核心に近づかなければならない。

エミルの日記によるとラウケ神殿修道院に行けば、

ラウケ神団の教授である、‘エリシャ’に会えると書いてあった。

彼女はヴェーナへ向かい旅立つ準備をした。

荷造りをしている途中で、ふと窓の外をみたら、

武装した兵士達がどこかに向かって急いで移動しているのが見えた。

その兵士達の登場に疑問を持つのがタスカ一人ではないらしく、人々が道端に立って彼らを見ていた。

何か嫌な予感がする。兵士達が向かっているのはランベルクの西門だった。

 

「何処へ行く為に武装しているのか知っている?」

 

ドアの前で道の掃除をしていたトムが兵士を見ながらブロンスに聞いた。

ブロンスは自分も知らないという表情だった。

ランベルクの西門に向かっていた兵士達は少しずつ北へ向かって動いた。

 

「プリア町にダークエルフの貴族がいるのでしょうか?」

 

無言で前をみながら歩いている警備隊長ダグハンの顔をちらっとみながら、警備部隊長ダキンが聞いた。

 

「大長老が確実ではない情報で判断するわけがないだろう。

何故ダークエルフの貴族がプリア町に泊まっているか分からないが、捕まえなければならない。

念のため、みんなに‘ゼロス’を配ろう」

 

ダグハンの命令にダキンは補給担当に命令した。‘ゼロス’をもらった兵士達の神経はもっと鋭くなった。

最後の兵士まで‘ゼロス’をもらった時、ダグハンが大きな声で話した。

 

「我々は今プリア町にいるダークエルフの貴族を捕まえる為にランベルクからきた。

プリア町にいるダークエルフは一人みたいだが、最悪の状況も考えなければならないので、

君達に‘ゼロス’を渡している。

着く前に装備するべきだが、時間の余裕がないので、進みながら装備するように!」

 

兵士達は2人組みになって、片方が装備を脱ぎ、‘ゼロス’を装備している間に、

片方が武器と防具を保管する形で、交代で‘ゼロス’を装備した。

東南で光っていた太陽も南西の雲に沈む頃になってダグハンとタキンの目の前にプリア町が見え始めた。

ランベルクから出て初めて、ダグハンが手を上げ、兵士達を止めた。

 

「入る前に最終命令だ。プリア町に泊まっているダークエルフの貴族は必ず生け捕りするのだ。

殺しては行けない。最悪の場合、ダークエルフにプリア町が占領されている可能性もあるのだ。

最大限住民達の安全を確保しながら生け捕りにするように最善をつくすように。

出発!」

 

「はい!」

 

ダグハンの足がまた動き始まり、兵士達も緊張の中足を運び始めた。

緊張で固まった兵士達とは関係なく、プリア町は平和で活気が溢れていた。

 

「最悪の状況ではなさそうです」

 

町の雰囲気を確認したタキンがささやくように小さい声で言った。

ダグハンは頷き、兵士達に町の周りを警戒するように命令した。

兵士達はそれぞれ素早く町の周りへ移動した。

町の住民達はいきなり現われた兵士達のせいで驚いた様子だった。

 

「いったい何でしょう」

 

グスタフが住民達の中から歩き出てダグハンに聞いた。

 

「失礼します。ランベルクから派遣された警備隊です。

私は警備隊長ダグハンで、こちらは部隊長のタキンといいます」

 

「始めまして。私はグスタフと申します。首都からこんな隅っこまで一体何の用ですか?

武装した兵士達と一緒に…」

 

「ここにダークエルフの貴族であるフロイオン・アルコン卿が泊まっている情報を入手しました

大長老の命令で彼を向かえに来ました。フロイオン・アルコンは今何処にいらっしゃいますか?」

 

「フロイオン・アルコン卿?確かにダークエルフの一人がこの町に泊まっていましたが。

そんな変な名前ではなかったです。似ている気もしますね…フロンとフロイオンと…」

 

「フロンという名前はフロイオンのあだ名でしょう。彼は今どこですか?」

 

フロンの本名がフロイオンである可能性があると聞いて少し驚いた様子だった。

少し暗くなった声で答えた。

 

「彼は昼間ここから出ました。すれ違ったんじゃないですかね」

 

グスタフの答えにダグハンの顔が曇った。

 

「イグニスに戻ったのですか?しまった、チクショウ…

タキン!兵士達にイグニスへ向かう準備をするように伝えろ!

彼がイグニスに着く前に急ぐべきだ!」

 

タキンが兵士達に命令を伝える為に走っていくのを見たダグハンは

グスタフに丁寧に挨拶してから自分も後を追った。

 

「一つだけ聞きたいですが」

 

グスタフの声にダグハンが足を止めて、振り向いた。

 

「大長老が彼を連れてくるように命令した理由は何ですか?

彼のためにこんなに多くの兵士達が武装して動くなんて…いったい何が起こっているのですか?」

 

「理由は私も分かりません。だた、武力を使ってでも彼をつれてくるように命令されました。

詳しくは分かりませんが、ハーフリングの将来がかかった、大事なことだと聞きました」

 

 

第9章1話もお楽しみに!
[NEXT]
第九章 運命の渦巻 第1話
[BACK]
第八章 夢へと繋がる鍵 第14話
 :統合前のニックネーム