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第九章 運命の渦巻 第1話 10.02.24


呪いの塔は気持ち悪い雰囲気だった。内部の状況はもっと悪くて前が見えない暗闇から

わめき声や叫び声が絶えず聞こえてきた。

鳥肌つくらい空気は凍っていた。

キッシュは両手に短剣を握り、一歩一歩前へ進んでいた。

床には正体が分からない液体が広がっていて、足を運ぶたびに気持ち悪い感じがした。

遠くから聞こえてきた叫び声が減る代わりに脅かす声が聞こえてきた。

 

‘アヴァドンか?

 

試合の内容はアヴァドンを生け捕りすることだったが、

呪いの塔のどこら辺にアヴァドンがいるのかはまったく知られてない。

簡単に言うと、‘アヴァドンを生け捕りにするまで、呪いの塔の悪魔達と戦い、生き残ること’になるだろう。

キッシュはゆっくりとつぶやき声が聞こえてくる方向に向かって移動した。

アヴァドンが‘千の顔’と呼ばれていることは知っていても、アヴァドンの顔は知らない。

向かっていくと、青く光っているスペクターが視野に入ってきた。

人の顔の皮をはがして、巨大な団扇を作り背負っているスペクターはキッシュを見つけて

鋭く叫びながら巨大な鎌を振るってきた。キッシュはゼンで十字を作り攻撃を止めた。

 

「チクショウ!強いな」

 

スペクターの鎌とキッシュのゼンがぶつかった状態でキッシュは後ろへ引きずられた。

キッシュは後ろの方に何もないことを確認して、素早くゼンを下にしながら、後ろへ移動した。

いきなりキッシュが消えた反動でバランスを崩したスペクターは床に鎌を差しながら、倒れた。

キッシュは立とうとするスペクターに向かって呪文を唱えた。

ゼンから出た光がスペクターを囲んだ。

つらい悲鳴をあげながら、スペクターが消えた。

無事にスペクターをやっつけたキッシュはドビアンを思い出した。

 

‘あいつ…大丈夫かな…?’

 

後継者になったという話を聞いてから少しずつドビアンの様子がおかしくなった。

自分がドラゴンの末裔ということに彼の自負は高いものだったが、口喧嘩までした事はなかった。

キッシュは最近の旅で心境が変わって、他の種族と連合することを提案したのが

気に入らないのは分かるが、あんなに大きく怒る人ではなかった。

自分が変わったことにより、大きく変わっている友達をみて驚いた。

ドビアンが知らない人になったようで寂しさも感じた。

 

‘まるで悪魔にさらわれたように変わった…ドビアンが変わったのは理由があるはずだ。’

 

背中から綺麗な歌声が聞こえてくると思ったら、いきなり風のように鋭いものが横を走って消えた。

キッシュは体を避けながら、後ろをみた。色気のある声で歌を歌っていたのはサキュバスだった。

派手に飾ったサキュバスが赤色に帯びた黒い羽でキッシュに向かって近づいてきた。

鋼鉄のように鋭い爪で音を立てながら、人を誘うように綺麗な歩き方をしていた。

‘夢の中の悪女’とも呼ばれるサキュバスは、男の人の生命力を吸い取り、命を奪う。

サキュバスの歌声と視線にさらわれた瞬間、深い眠りに落ち、そのままサキュバスに生命力を奪われ

やがてはんでしまうのだ。痛さはないが、戦いにくい綺麗な悪魔は、恐ろしい存在である。

キッシュはサキュバスの目をみないように注意しながら、両手の武器を振るった。

キッシュが攻撃し始めると、サキュバスの歌声が止まった。

 

大きな羽で空中に飛んだサキュバスは、キッシュに向かって鋭く硬い爪を振るった。

相手の顔を見ないようにしながら、戦うのは至難の業だ。

サキュバスの羽が床に落ちるのと同じくらいにキッシュの体にも傷が増えた。

キッシュは歯を食いしばり、大きく剣を振り回した。

青く光るキッシュの剣は、サキュバスの体を半分にした。

サキュバスは悲鳴をあげながら灰になってしまった。

キッシュも力をなくし、倒れるように座り込んだ。

 

一方ドビアンは目の前にある小さいガラスの箱を見ていた。紫色の霧が中を覆っていた。

 

「これが本当に‘千の顔’と呼ばれるアヴァドンですか?」

 

カルバラ大長老は頷いた。

 

「そうだ。これがアヴァドンの本当の姿だ。見た目で判断してはいけないことは十分知っているつもりだが、

アヴァドンの姿を見ていると実感するな」

 

「一人でも十分だったと思いますが…」

 

不満そうにいうドビアンをみながら、カルバラ大長老は無視する眼差しでしゃべった。

 

「そうですね。最初の試合であんなに恐怖に襲われるとは思いませんでしたので、

自分の力が必要かなと思いました。今回の試合でも負けたら、もう機会はありませんので…

そういえば、一体あの時何が見えたのでしょうか?」

 

ドビアンは一番目の試合で出会った恐怖が思い出されたのか、表情が硬くなった。

 

「何がそんなにあなたを怯えるようにしましたか?」

 

促すカルバラ大長老の言葉にドビアンが口を開いた。

 

「私が見たのは怒りに満ちているキッシュでした」

 

カルバラ大長老は変なことを聞いたかのようにしかめた。

 

‘怒る友達の姿をあんなに恐れるなんて。今回、前もって準備をしたほうが良かったな’

 

ドビアンは静かなに顔を横に振りながら、しゃべった。

 

「長老は理解できないと思います。キッシュの怒りを見たことがないですから。

彼が叫んでいる姿を見ないと理解できないと思います」

 

 

第9章2話もお楽しみに!
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