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第一章 救援の重さ 第3話 08.03.26
 
エトンは一国の首都であり聖地であった。
最初にロハン大陸に足を踏み入れた8人のジャイアントは、
この大地から得られた物を集めて神への感謝祭をあげた。
ジャイアントを創造した大地の神ゲイルはその場にその姿を現しジャイアントを祝福した。
そして、この荒れた大地を統治し、全ての存在がジャイアントに従うようにすることを命じた。

その場所がジャイアントの首都、エトンである。

きめ細かく飾られた王宮はジャイアントの中でも長身な方であるナトゥーにさえ
威圧感を感じさせた。
いつもその勇壮な美しさに感心していたが、今日のように誇らしく思えたことは初めてだった。

ジャイアントがロハン大陸に姿を現せてからかなりの歳月が経った。
しかしこの広い大陸の中でジャイアントが支配している領域はごくわずか。
この大陸を支配しその栄光をゲイルに捧げるどころか、
日々その数を増加させるモンスターから今の領域を守るだけで手がいっぱいだった。


「ナトゥー?」

クレムが低い声で呼んだ。彼はアゴで王宮の方を指した。
ナトゥーは軽く頷き、クレムと王宮入口に続く階段に足を運んだ。
最近、クレムはずっとナトゥーの様子を伺っていた。
また、ナトゥー自身もそれに気づいている。
弟のラークの戦死後、自分で気づくほど精神が不安定だったからだ。

「戦士会からの理由もないお呼びってどういった用件なんだ。」

クレムは少し心配げにつぶやいた。ナトゥーは肩をすくめて見せた。
実は彼は戦士会からの呼び出しより、
その後に母親と会うことになっていることがすごく気になっていた。
戦死した弟のことで悲しむ母親の顔を見るのはつらい。
弟の死が誇り高いものだったということは母親には何の意味もないことだろう。
結局頭を見つけられなかった弟の遺体が思い浮かんだ。
その遺体ですら持って来ることが出来なかったことも
母親にとってはなんともいえない悲しいことだろう。

ナトゥーは腕につけた二つの腕輪に優しく触れた。
一つは自分のもので、もう一つは死んだ弟のラークのものだった。
戦士会の集会室の方に歩きながらナトゥーは二つの腕輪があまりにも重く感じられた。
戦場で振るう二つの剣よりもっと重く感じられた。

状況の報告が終わるや否や戦士会は解散した。
ナトゥーとクレムは戦士会がすぐ終わったことに安心しながらも、
状況の報告のためだけに戦場で戦っている部隊長を呼んだことに腹をたてた。
二人は苦笑いをしながら集会室を出た。


集会室のドアの前にはまだ少年の顔をした青年が立っていた。
彼は二人に近づき、会釈した。

「ノイデ様のお呼びです。」

小声で囁く青年からは回りの目を避けようとする気配が明確に感じられた。
戦士会は解散したのに、戦士会の首長に呼ばれる理由はなぜだ、と聞きたかったが、
その青年はそれを聞く間も与えてくれない。
いつの間にか歩き始めた青年の後を追って、
ナトゥーとクレムは戦士会の裏にある小さな部屋に向かった。

戦士会の首長であるノイデは戦場での豊富な経験を持ち若者に負けない体力の持ち主だった。
もう戦場に出ることのない老いた将軍だが、若者に負けないがっしりとした体つきに、
経験からの賢明さまで備えた者だ。
およそ10年前、モンスターとの戦闘時に片目の視力を失い、
残った片目は腰につけた破壊力のありそうなセプターと共に前より鋭い力を発していた。

ノイデはその鋭い片目でナトゥーとクレムを観察するかのように眺めた。
彼の顔からは二人を迎える嬉しさなどは少しも伺えなかった。
ノイデは二人の戦士の挨拶を適当に流し、口を開いた。

「君らをここに呼んだのは、何年経ってもまったく変わっていない戦況報告のためじゃない。
特別な指示があるためだ。」

ナトゥーは唇を噛み、クレムの顔は悔しさに歪んだ。
二人の戦士が命をかけて守っている戦場をあまりにも軽んじる発言だった。
二人の顔に不満の表情が浮かんでも、ノイデの冷ややかな表情が変わることはない。
彼は話を続けた。
 
「ダークエルフ側から使者が来る予定だ。君達に彼らの護衛を任せたいんだ。」

「護衛…ですか」

ナトゥーは怒りを押し込めた声で聞いた。
使者の護衛のために、部隊長の自分やクレムを首都まで呼ぶのはいくらなんでもおかしい。
何かの過ちで謹慎措置が下りたのでもない。
おかしいところはそれだけではなかった。

「その使者は私達が護衛に当たるほど大事な客ですか」
 
こんどはクレムが聞いた。
ジャイアントにとってダークエルフは嬉しい客ではない。
単純でストレートな性格のジャイアントにとって、形を重視し、
本音を出さないのが特徴のダークエルフは決して理解できない存在だった。
しかも彼らはジャイアントには分かることのできない力、魔法を使う種族。
そうした複雑な不快感がクレムの短い質問に込まれていた。

ノイデはもう一度2人の戦士を見つめ、頷いた。

「君達の活躍ぶりはすでにここエトンまで知られているから、
君達はもうすぐ戦士会の一員になるだろう。
だから知らせておく必要があると思ったんだ。
偉大なる戦士で、岩の魂を持つ我々の国王、
レプトラバ陛下はダークエルフと手を組もうとお考えになられている。」

2人の若い戦士は驚いた顔のまま、何も言えず口ごもってしまった。
彼らを見つめていた老いた戦士の口元にほんの一瞬かすかな微笑が浮かび、すぐ消えた。
第四話もお楽しみに!
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